知的財産の管理
ベトナムの活況を呈しているデジタル経済の成長は大きな可能性を秘めている一方で、オンライン上の知的財産権侵害という根深い問題を引き起こしている。知的財産権者が直面する問題は、デジタルサービス(ストリーミングサイトやトレントサイト(torrent site)など)における著作権侵害から、電子商取引サイトやソーシャルプラットフォームを通じた模倣品の販売、そして商標の誤った使用による権利の濫用まで、多岐に渡っている。これらの侵害は利益を圧迫するだけでなく、ブランドの評判を損ない、消費者に誤解を招いている。そのため、サイト・ブロッキングとキーワード・ブロッキングは、ベトナムで利用可能な権利行使ツールとしてますます重要な要素となっている。
ブロッキング行為に関する法的枠組み
ベトナムにおけるサイト・ブロッキングおよびキーワード・ブロッキングは、特に2022年の知的財産法改正以降、法的枠組みの拡充によって支えられている。それ以前は、ブロッキングの法的根拠は複数の法律に分散しており、インターネットサービスプロバイダー(ISPs: internet service providers)は、当局からの正式な要請があった場合にのみ、著作権侵害コンテンツへのアクセスをブロックする義務を負っていた。
改正知的財産法における第198b条の導入は、著作権者がサイトブロッキングを直接申請するためのより明確な仕組みを確立し、大きな転換点となった。本規定により、インターネットサービスプロバイダーは有効な削除申請またはブロッキング申請に応じる義務を負う。
知的財産法に加え、情報技術法(Law on Information Technology)、サイバーセキュリティ法(Law on Cybersecurity)、広告法(Law on Advertising)、そして様々な政令などの重要な法律がある。これらの法令は、ベトナムにおけるブロッキング行為のための、より体系的かつ執行可能な根拠を提供しているが、実際のエンフォースメントは依然としてインターネットサービスプロバイダーの協力と侵害証拠の明確さに依存している。
管轄当局
これまで、権利者は科学技術省、文化スポーツ観光省、またはベトナム電子商取引・デジタル経済庁( iDEA: Vietnam E-Commerce and Digital Economy Agency)傘下の専門検査機関を通じて行政措置を講じることができた。しかしながら、最近の政府再編により、これらの機関は解散し、その機能は政府検査機関に移行した。これにより、近い将来、執行スケジュールに影響が出る可能性がある。ブロッキング命令を含む民事紛争は人民裁判所で扱われ、刑事事件は警察に移管される。
ブロッキングメカニズムの実践的理解
これらの措置を効果的に展開するには、権利者はその実際的な適用方法を把握する必要がある。サイト・ブロッキングは直接的な封鎖であり、ベトナム在住のインターネットユーザーが、著作権侵害コンテンツをホストしているとみなされる特定のウェブサイトにアクセスできないようにする。インターネットサービスプロバイダーは通常、有効な申請または命令を受けて、これらのブロッキングを主に実施する。インターネットサービスプロバイダーは、DNSブロッキング(ウェブサイト名がIPアドレスに対応づけられるのを防ぐ)、IPアドレス直接ブロッキング、著作権侵害コンテンツを含むことが知られている特定URLのフィルタリングなどの技術的な手法を用いる。その目的は、国内から侵害の発生源へのアクセスを遮断することにある。
キーワード・ブロッキングは、著作権侵害コンテンツや製品の発見可能性をターゲットとしている。そのロジックは、たとえ著作権侵害サイトが存在したとしても、ユーザーがそのサイトを見つけにくくすることで、その影響を大幅に軽減できるというものである。これには、Google、Bing、あるいはローカル検索エンジンであるCốc Cốcなどの検索エンジンに対し、関連キーワードの検索結果から著作権侵害コンテンツへのリンクを削除またはランキングを下げるよう要請するといった積極的な措置が含まれる。また、Google Ads、YouTube、Facebook、TikTokなどのオンライン広告プラットフォームと連携し、ユーザーが特定のキーワードを検索した際、あるいは特定のキーワードを対象にした際に、模倣品や海賊版の広告が表示されないようにすることも含まれる。本アプローチは、消費者の検索と著作権侵害を伴うオンラインオファーとの関連性を効果的に断ち切るのに役立つ。
実務的なステップ
ブロッキング措置の実施には、体系的かつ実務的なアプローチが必要である。プロセスは通常、侵害行為の特定および文書化から始まる。執行官(bailiff)による記録の実施や、必要に応じてテスト購入を行うなど、強固な証拠の構築および保管が、その後のエンフォースメント措置を裏付ける上で不可欠である。
確固たる証拠を保有する権利者は、最も適切な手段を選択する必要がある。この決定は、侵害の深刻さ、対応の緊急性、利用可能なリソースなど、多くの要因に左右される。一つの選択肢として、インターネットサービスプロバイダーの内部報告制度を利用して、削除通知を直接提出することが挙げられる。このアプローチは、明らかな違反に対しては迅速な結果をもたらす。しかしながら、その効果はインターネットサービスプロバイダーの協力に大きく依存し、その協力は必ずしも一定ではない。侵害が議論の余地がある、または正式な判決なしには評価できないほど複雑すぎる場合、インターネットサービスプロバイダーは対応を拒否することがある。このような場合、インターネットサービスプロバイダーは通常、当事者に対し、適切な機関を通じて解決を図るよう助言する。
あるいは、権利者は関係機関に行政上の申し立てることもできます。これは訴訟よりも効率的かつ費用対効果が高い場合が多いが、検査機関の再編が進行中のため遅延が生じる可能性がある。電子商取引における侵害については、 iDEAに申し立てることができる。
民事訴訟は、多額の損害賠償や差止命令を伴う訴訟に適しているが、大規模な模倣などの重大な犯罪には刑事訴訟が不可欠である。しかしながら、どちらの手段も時間とリソースを大量に消費するため、重大な侵害行為にのみ適用するのが最善である。
エンフォースメント・ルートに関係なく、プロセスには通常、次の内容が含まれる。
- 書類の準備:知的財産権の所有権、侵害の証拠、法的権限(委任状など)の証拠を揃える。必要な書類はインターネットサービスプロバイダーまたは機関によって異なる場合がある。
- 提出: 完成した書類を適切な機関に提出する。
- 審査および対応:機関が方式審査を行っている間、インターネットサービスプロバイダーは申し立てが明確であれば迅速に行動を起こす場合がある。侵害が確認された場合、インターネットサービスプロバイダーは制裁を科したり、コンテンツの削除を命じたりする場合がある。
エンフォースメント後も、違反が繰り返される危険性が高いため、継続的な市場監視が不可欠である。
最後に
サイト・ブロッキングおよびキーワード・ブロッキングには課題がないわけではない。侵害者はVPN、ドメイン・ホッピング、キーワード操作、匿名性といった方策を用いてエンフォースメントを逃れることが多いからである。しかしながら、デジタル化が進むベトナムの市場において、知的財産権を保護するために不可欠なツールであることに変わりはない。これらは、侵害コンテンツへのアクセスと可視性を制限するための具体的なメカニズムを提供している。サイト・ブロッキングとキーワード・ブロッキングは、プラットフォームへの働きかけ、行政措置、そして必要に応じて訴訟といった手段を補完する、より広範なエンフォースメント戦略の重要な要素と捉えるべきであえる。侵害者の方策は進化し続けるため、成功には粘り強さ、適応力、そして積極的なアプローチが不可欠である。
備考:本和文は英文記事を翻訳したものです。原文については、以下のリンクをご参照ください。
Online IP Enforcement in Vietnam: Utilizing Site and Keyword Blocking