October 10, 2022
タイにおける大麻と人事対策

タイが最近麻薬のリストから大麻を削除したことは、同国にとって重要な変化であり、人事チームの中には、会社内で有害な事件が起きないようにするために、何らかの対策をすべきではないかと考えている場合もあるだろう。

例えば、出勤前に大麻を使用したため、勤務中に大麻の影響を受けている労働者がいたらどうだろう。以前は大麻が明確に禁止されており、使用者の敷地内で大麻を使用したり所持したりすると、労働者は懲役や罰金などの刑事責任を問われたため、このような問題はほとんど考慮されていなかった。しかし、政府が麻薬法に基づいて麻薬のリストから大麻を削除した今、そのようなことがより起こりやすくなっており、多くの使用者の間で、どうすればこのようなことを防止し、対処できるかという懸念が生じている。

会社の敷地は使用者の支配下にあるから、使用者には労働者が社内に大麻を持ち込むことを禁止する権限がある。特に、労働者が大麻を使用することは他の労働者を著しく妨害する可能性があるため、雇用主はこれを管理する権限を有する。しかし、労働者が禁止に違反した場合の罰則を設けたい場合は、そこまで単純にはいかない。

 

就業規則

 労働者保護法(Labor Protection Act)では、10人以上の労働者を雇用する場合、タイ語の就業規則を定めなければならない。就業規則には、次の項目が含まれている必要がある。

  • 労働日、所定労働時間及び休憩時間の指定。
  • 休日・休日の取得の規則。
  • 時間外労働及び休日労働に関する規則。
  • 賃金の支払いの手配(支払日と支払場所)。
  • 時間外賃金、休日賃金及び休日時間外賃金。
  • 休暇及び休暇の取得の規則。
  • 懲戒処分。
  • 苦情の申出。
  • 雇用の終了、解雇補償金及び特別解雇補償金。

 

就業規則(例えば、大麻関連のルールを導入するために)を作成又は変更する場合、使用者は次のことを行う必要がある。(なお以前は、労働者保護局長又はその指名する者に就業規則又は就業規則の変更書の写しを送付することが義務付けられていたが、2017年の労働者保護法改正でこれは撤廃された。)

  • 就業規則を作成又は変更した日から15日以内に就業規則の実施を公表すること。
  • 就業規則及びその変更を常時社内に保管すること。及び
  • 就業規則・その修正を職場において公開していること。使用者は、就業規則又はその修正を電子的に公開することもできる。

 

しかし、労働者の雇用条件に影響を与えるような就業規則の変更には、より多くの意見を聞くことが必要である。労働関係法(Labor Relations Act)の下では、使用者は雇用条件を一方的に変更することはできない。

「雇用条件」という用語は、タイ法の下での広い概念であり、賃金、福利厚生、労働日数、労働時間等など雇用の条件であることが明確なものから、労働者の苦情の提出に関する規則、雇用の終了、懲戒処分、就業規則の改正、その他契約又は慣行により義務とされる職場の条件などの事項までを広く含む概念である。例えば、変動制のボーナスの基準は雇用条件とみなされ得るため、雇用者が書面においてそれを変更する権利を明示的に留保していない場合、これらの基準を使用者が一方的に変更することができない可能性がある。同様に、労働者に支給されるシャトルサービスなどの福利厚生も、雇用条件になりうる。

労働条件に影響を与える就業規則の変更をしようとする場合には、労働関係法に従い、労働者に対し要求を記載した通知書を交付して交渉するか、労働者の同意を得なければならない。ただし、就業規則に、使用者が将来就業規則を変更する権利を留保する旨の条項がある場合は、雇用条件に影響を与えない範囲での就業規則の変更をすることができる。例えば、就業規則に部署ごとの労働者数が記載されている場合などは、雇用条件の利益に影響を与えない範囲で変更することができる。

以上から、大麻に関する規則については、前述のとおり、使用者が社内で労働者が大麻を使用することを禁止することは可能だが、大麻を社内に持ち込んだ労働者を解雇するという規則を設けたい場合又はその他の罰則を科すとしたい場合には、雇用条件に影響があると考えられるため、使用者が一方的に行うことはできない。したがって、このような就業規則の改正を考える使用者は、労働関係法の手続きに従って、労働者に要求を記載した通知書を交付するか、労働者に同意を求めることによって、手続きを進めなければならない。

 

備考:本和文は英文記事を翻訳したものです。原文については、以下のリンクをご参照ください。Cannabis and Human Resources Considerations in Thailand


執筆者
Chieko Tsuchiya
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