October 7, 2021
輸入業者の関税についての協議:関税紛争に早期かつ効率的に対処する

物品の迅速かつ効率的な移動は、現代のグローバルサプライチェーンの特徴です。ただし実際は、それはしばしば契約上の約束に基づく期待にすぎず、目的国へタイムリーで問題なく物品の配送が行われることが前提です。予期しないコストや不当な遅延が発生した場合、輸入業者は顧客または受益者に対して責任を負う可能性があり、その結果、予想される収益が減少またはゼロになる可能性があります。輸入業者にとって特に重要な点の1つは、通関および関税評価です。これは、グローバルサプライチェーンの最後の、しかし最も重要な段階の1つです。

輸入業者は、経験や知識にかかわらず、他国から送られる物品の輸入と分類に適用されるすべての法律と規制を理解し、遵守する義務があります。タイは、多くの国と同様に、世界貿易機関(WTO)のメンバーであり、物品の評価と分類に関するWTOガイドラインを遵守する義務があります。また、輸入業者による関税評価の異議申立てに対する法的枠組みを定める規制、政策、および関税法もあります。多くの場合、輸入業者は、担当の関税局職員との間で、問題なく、物品につき効率的に通関手続きを行うことができます。ただし、紛争の発生は避けることができず、その多くは、原産地、分類、および関税評価に関連します。早期に対処しない場合、紛争がエスカレートし、物品の差押え、保証金の支払い、関税局による最終評価、さらには民事または刑事上の不正行為の申立てにつながる可能性があります。このように進行してしまうと、紛争解決を達成するために協議を行うには遅きに失することになります。

関税局との紛争を解決するためには、そのような状態に陥る前に、輸入業者は、事前評価協議の機会を設ける必要があります。この段階では、関税局と相談し、書類提出を行い、和解を検討するための方法や時間に柔軟性があります。しかし、この重要な時期が過ぎてしまい、タイの関税局が公式の評価書を発行した後は、輸入業者が、関税評価に異議を申し立てる場合、その選択肢は厳しく制限されてしまいます。

関税紛争解決に関する2回にわたるシリーズの前編の当記事では、事前評価の協議手順に焦点を当て、輸入業者が、問題解決のための積極的な措置を講じることにより、そのリスクと関税額を大幅に削減する方法を検討します。

 

評価書

事前評価協議の利点をよりよく理解し、関税局との意見が異なる場合に輸入業者が利用できる手段を検討する上で、まず、公式の評価書の意味を理解することが重要です。通常、公式の評価書は、輸入時からかなりの時間が経過した後、タイの関税局が最初の監査を実施し、関税または分類の評価を行った後に発行されます。この最初の(または予備的な)関税評価について意見の相違がある場合、輸入者またはその代理人は、評価について輸入者の立場を主張するか、予備評価を受け入れるか、または関税局との交渉による和解を行うかのいずれかを行うことができます。何の措置も取られない場合、または紛争の解決が不可能な場合、タイの関税局は公式の評価書を発行します。

この公式の評価書が発行されると、和解におけるような裁量はなくなり、評価額の全額を受け入れるのみとなります。輸入者の主張を証明する協議の機会はなく、残された唯一の手段は、関税局の不服申立委員会または裁判所への公式の異議申し立てであり、これらの異議申立てを行うためには、輸入者が公式の関税評価に基づいて適切な保証金を提出する必要があります。さらに、タイ法の下では、輸入者及びその代表者に対し、特別捜査局によって刑事告発が提起されるリスクもあります。しかし、事前評価段階で問題に適切に対処すれば、このリスクは大幅に低くなります。

 

事前評価相談

タイの関税局と紛争が発生した場合は、関税局職員に、協議の場についてもらい、裏付け資料を提供し、輸入者の立場を理解してもらう時間を得るため、紛争に早期に対処することが非常に重要となります。また、関税局との交渉による正式な和解を行える唯一の合理的な機会でもあります。法律はこの協議プロセスの具体的なスケジュールを規定していませんが、タイの関税局を協議プロセスに関与させ、公式の評価書の発行に進まないようにするため、迅速に協議を開始する必要があります。関税局と輸入者が協議を行っている場合、評価書が発行される可能性は低くなります。ただし、法律が犯罪についての時効期間内に訴訟を提起することを要求している場合(たとえば、関税申告に関連する事項につき輸入日から10年)、関税局は、法律上の権利を保全するため、公式評価を進める以外に選択肢がない場合があります。

関税局職員との協議は通常、担当の関税局調査官による最初の監査後に行われます。自由貿易協定に基づく関税についての恩恵を得られる資格について疑義がある場合、または関税局が分類の誤りまたは関税の過少申告があったと考える場合、関税局は公式通知を介して輸入者に通知し、多くの場合、関税局に出頭するよう要求します。これは意見相違後の協議プロセスの始まりであり、輸入者またはその代理人がその立場を説明し、関税局に関税法違反ではない理由を納得してもらう機会となります。

関税局は、輸入業者から一定の証拠資料の提出を要求する場合があります。このような資料は、関税局の主張を確認するか、または、輸入者の反論を証拠づけるのに役立ちます。輸入者が慎重に計算し、かつ要求に応じた提出を行うことができるように、資料提出の要求については注意深く検討することが重要です。このような提出は、輸入者の立場を証拠づけるとともに、関税局に誠実さを示すことができます。紛争解決の上で、誠実に資料を提出することは、輸入者の主張が証明されるか、裁量による和解になるかを問わず、重要な要素です。

また、関税局が情報提出を要求していなくても、輸入者の法的立場の説明資料を担当の関税局調査官に提出することは輸入者の最善の利益になる可能性があります。これは、問題となる点について述べた簡単なレターによるものでも、評価または免税に関する輸入者の法的立場を説明するより詳細な意見書でも、かまいません。説明資料の複雑さのレベルは通常、事件の内容と係争中の問題に対する関税局の理解によります。協議期間中、1回の文書提出のみでなく、2回以上の文書提出が行われる場合があり、これらは問題点についての直接の話し合いを裏付けるものとなります。

この、慎重に準備された資料を誠実に提出し、自らの立場を合法と主張することにより、関税局が、輸入者の主張を受入れる可能性があります。ただし、事前評価相談において、輸入者の申告を関税局が受け入れることができない場合もあります。その場合は、裁量による和解が可能か検討する必要があります。

 

和解

2017年にタイ関税局長官によって発行および更新された関税紛争についての和解ガイドラインは、関税紛争について和解による解決を認めています。それは、担当の関税局和解委員会による承認を条件として、関税局に、交渉された和解を決定する際の裁量を与えるものです。関税局との紛争が、慎重かつ誠実な事前協議と資料提出で解決できない場合、正式な関税評価書が発行される前には、和解が最後の実行可能な選択肢となるでしょう。関税局が評価書を発行した後は、関税評価の全額に満たない金額での解決は不可能となります。協議段階で和解のオプションを検討することにより、不利な評価を回避し、紛争を解決し、不服申立て委員会またはタイの裁判所との費用のかかる不確実な訴訟を回避する可能性があります。

交渉における最も効果的な戦略には、通常、誠実な協議と、和解交渉を裏付ける書類提出が必要です。関税局調査官と和解委員会の両方によって承認される金額に到達するまでに、紛争の特性に応じ、複数の協議及び資料提出を行う必要があります。和解金額が承認された場合、その和解が最終的な紛争解決となります。

 

結論

商業物品の効率的な移動は、現代のサプライチェーンの重要な要素であり、何百万もの物品が問題や紛争なしに日々国境を越えています。ただし、紛争が発生した場合、それは複数の契約関係者に金銭的な波及効果をもたらすとともに、結果の不確実さ及び損害賠償責任につながるおそれもあります。関税紛争に直面している輸入業者にとって、法的立場を迅速かつ戦略的に評価し、担当の関税局との集中的な協議を行うことが非常に重要です。ケースによっては、協議は紛争の完全解決または交渉による和解につながる可能性があり、関税についての長期にわたる訴訟の危険や高いコストを避けることができます。


執筆者
Chieko Tsuchiya
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