インドネシアは多様な民族、文化、宗教を持つ多文化国家であり、文化的創造物、知識、伝統が豊富に存在する。そのような創造物、知識、伝統が特定のコミュニティーによって所有され、そのコミュニティーのアイデンティティの一部となっている場合、インドネシアの法律によって共有知的財産(Communal Intellectual Property)として保護される。
共有知的財産の一種は、伝統的知識である。よく知られた例として、プンチャック・シラット(pencak silat)として知られる武術がある。この武術は通常、客を迎える際に、ゴンダン・ボロゴン(gondang borogong)の音楽とともに伝統的に演舞され、インドネシアのリアウ州(Riau)の伝統的知識として登録されている。
共有知的財産に関する新しい規則
従来、伝統的知識は、著作権、特許、文化振興に関する三つの別々の法律を含む多くの法律によって規制されていた。しかしながら、2022年12月、インドネシア政府は共有知的財産に関する2022年政府規則第56号 (GR 56/2022) を発行し、伝統的知識の定義および保護に関する一連の規則を制定した。この規則の目的の一つは、2023年の政府の優先プログラムの一部である共有知的財産の登録を奨励することである。
GR 56/2022では、伝統的知識は、環境との相互作用の実際の経験からもたらされた地域の価値を含み、継続的に発展し、次世代に受け継がれるアイデアおよび概念と定義されている。本規則では、伝統的知識を以下のカテゴリーに分類している。
- 伝統的な方法またはプロセス
- 技術的熟練
- 技能
- 学問
- 農業知識
- 技術知識
- 生態学知識
- 遺伝資源に関する知識
- 医学、伝統医学、治療法に関する知識
- 経済システム
- 社会組織システム
- 自然や宇宙の振る舞いに関する知識
- その他の形態の知識
伝統的知識はコミュニティーに属する人格権であり、伝統的知識の利用者には、その起源を認識し、コミュニティーにとっての同一性および価値を維持する方法でそれを利用することが要求される。
伝統的知識の登録
政府は、伝統的知識の目録を作成し、管理し、維持する義務がある。現在、リストに載っていない伝統的知識は、法務人権省 (MOLHR: Ministry of Law and Human Rights) 、関係大臣、非省庁の政府機関、または地方政府に登録しなければならない。登録申請は、伝統的知識が属するコミュニティーまたは関係地方政府がオンラインで提出することができる。
申請の一部として、以下の書類を提出しなければならない。
- 所定の申請書
- 伝統的知識の説明
- サポート・データ
- 地方政府が署名した、伝統的知識の保護、保存、開発および利用を支持する文書
伝統的知識の説明には、以下を含めるほうがよい。
- 伝統的知識の呼び名
- 起源を有するコミュニティー
- 伝統的知識のフォーム(例えば、書面または非書面)
- 起源を有するコミュニティーの地域/場所
- 伝統的知識の種類(例えば、ダンス、工芸、服飾)
- 伝統的知識の書証(ビデオ録画等含む)
登録申請書が提出されると、当局は必要書類がすべて提出されていることを確認するための形式的審査を行う。その後、当局はチームを編成し、その知識がGR 56/2022に規定されている伝統的知識の定義を満たしているかどうかを判断するための検証審査(verification review)を行う。当該知識が定義を満たしていると判断された場合、その知識は法務人権省知的財産総局(Directorate General of Intellectual Property)が開発した共有知的財産データベースに登録される。現在、データベースには約10,475件の共有知的財産が登録されており、そのうち500件以上が伝統的知識である。
伝統的知識の登録は、起源を有するコミュニティーによって与えられた価値および意味と異なる方法で知識が利用されることを防ぐのに役立つ。当該登録は、法的紛争の解決を促進するためにも利用できる。さらに、当局は、教育や普及などのために登録された伝統的知識を維持し、それがコミュニティーの利益のために利用されることを保証することが要求される。
伝統的知識の利用および保護
共有知的財産データベースに登録されている伝統的知識は、誰でも利用することができる。ただし、その起源を認め、コミュニティーにとっての同一性および価値を維持する方法で利用することを条件とする。しかしながら、神聖、秘密、または厳格に保持されているように登録されている伝統的知識(聖典など)を利用したい場合は、コミュニティーの許可を得なければならない。さらに、伝統的知識を商業目的で利用したい場合は、非金銭的利益/金銭的利益の一部または全部をコミュニティーと共有しなければならない。
インドネシアの伝統的知識を保護するメカニズムは、多様なコミュニティーの文化遺産および知的財産を保護するための一歩である。共同知的財産に関する2022年Government RegulationNo.56の発行により、インドネシアは伝統的知識の定義、登録および規制のための包括的な枠組みを確立した。当該規制は、伝統的知識の共有を認めるだけでなく、それぞれのコミュニティー内で伝統的知識の真正性および価値を維持することの重要性を強調している。伝統的知識のあらゆる利用に対して登録および期限の確認を義務付けることにより、インドネシアは、敬意を払い有益な利用を促進しながら、その搾取を防ぐことを目指している。これらの措置を通じて、インドネシアは豊かな文化遺産を保護しているだけでなく、多様なコミュニティーおよび伝統的知識を活用しようとする人々の間で、尊重と互恵の枠組みを育んでいる。
備考:本和文は英文記事を翻訳したものです。原文については、以下のリンクをご参照ください。