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10月 3, 2022

実務家の観点から見た改正ベトナム知的財産法の特許関連事項

特許は、2022年6月16日にベトナム国民議会で可決され、2023年1月1日に発効する改正知的財産法(以下、「 改正IP法」という)の主要部分である(ただし、2024年1月14日に延期される予定の農薬品の実験データの保護に関する規定を除く)。

改正IP法の改正・補足内容としては、発明の新規性の評価に関する第60条、そして、特許保護証書の無効理由に関する第96条に、注目される特許関連の改正がある。これらの改正点について、以下に説明する。

 

[1] 第60条第1項に基づく先行技術

発明の新規性に関する改正IP法第60条第1項の重要な改正は、発明が新規性を喪失したとみなすことができる範囲を拡大することである。

ベトナムで初めて、 「秘密の先行技術」、すなわち、出願日または優先日が先の特許出願であるが、審査されている特許出願の出願日または優先日以降に公開された特許出願が、先行技術文献として導入されている。

 

上図では、A 2の出願時に、秘密の先行技術A 1が出願されているが、まだ公開されておらず、公衆が秘密の先行技術A1にアクセスすることができない。この時点では、A 1出願人とベトナム国家知的財産庁のみがA 1の出願を認識できる。

2009年および2019年に改正された2005年IP法の規定では、A 1特許出願は、A 2の新規性を評価する際に先行技術文献とはならない。しかしながら、先願主義 および優先権の原

則に基づき、A1特許出願が存在する場合には、A2特許出願の特許性を否定するための他のアプローチが知的財産庁には存在していた。

改正IP法第60条第1項 (b) の規定を補足することにより、A 1特許出願は、A 2の新規性を評価するための 「秘密の先行技術」 と公式にみなすことができる。その結果、本改正は、「秘密の先行技術」 を用いて新規性を評価するための、より合法的で直接的かつ包括的なツールを提供する。

改正後の第60条第1項の規定から、「A 1とA 2の出願人が異なる場合に限定されるか(国によっては、A 1とA 2の出願人が同一の場合には、秘密の先行技術には適用されない)」、また、「外国で出願され、まだ公開されていない特許がベトナムにおいて秘密の先行技術とはみなされないかという「国内限定」 の有無」など、あいまいな点がまだある。改正IP法の施行後は、これらのあいまいな点を明確にするために、多くのガイダンスが発表される可能性が高い。

最後に、「秘密の先行技術」 の使用に関する規定は、発明の新規性の評価にのみ適用され、進歩性の規定には適用されない。

 

[2] 第96条に基づく新たな特許無効理由

第96条 が改正され、特許無効理由が追加された。現在の2つの理由は、 (i) 出願人がその発明を登録する権利を有さず、またはその権利を譲渡されてもいない場合、 (ii) 発明の主題が保護条件を満たしていなかった場合、である。改正IP法は、以下の規定を追加している。

(iii) 特許は、次の場合にはその全部が無効となる。

  • 特許出願が安全保障に関する管理措置に違反して出願された場合、又は
  • 遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識から直接創作された発明について、登録出願の願書にその遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識の由来を開示していない、又は正確に開示していない場合

(iv) 次の場合には、特許の全部又は一部が無効となる。

  • 補正が、開示された主題の範囲を拡大し、又は出願において主題の性質を変更する場合
  • 明細書において発明が十分かつ明確に開示されていない場合
  • 特許発明が当初明細書における開示の範囲を超える場合
  • 発明が先願主義を遵守していない場合

実際には、多くの無効審判官が過去に特許無効の請求においてこれらの理由を引用しているが、我々の知る限り、知的財産庁は特許を無効とするいかなる審決においても、これらの事実的根拠を未だ使用していない。ベトナムでこれらの理由が法律で成文化されたのはこれが初めてであり、無効の請求で今後頻繁に使用される可能性がある。

安全保障に関する管理措置の規定に違反して出願された発明の非保護は、現行規則に記載されている。しかしながら、安全保障に関する管理措置の対象として「ベトナムの組織及び個人の発明」 及び 「ベトナムで創作された発明」の特定などの、依然としていくつかの不明確で議論の余地がある点がみられる。

改正IP法は、安全保障に関する管理措置に関する規定を、特許出願が本規定に違反して出願された場合に特許を無効とする理由としており、また、上記の曖昧な用語を、 「国防及び安全保障に影響を及ぼす技術分野における発明であって、ベトナムにおいて創作され、かつ、その登録する権利がベトナムに在住するベトナム人又はベトナム法に基づき設立された法人に属するもの」 とより明確な用語に置き換えている。

しかしながら、「ベトナムで部分的に創作された発明」、「ベトナム法人と外国法人とによって共同で所有される発明」、「ベトナムで創作されたが、ベトナム法人の登録する権利が出願前に外国法人に譲渡された発明」などの事例に対応するためには、より具体的なガイドラインがまだ必要である。

遺伝資源および遺伝資源に関連する伝統的知識の保護は、生物多様性に関する法律No.20/2008/QH 12 (法律No.35/2018/QH 14により改正)で規定されている。特許出願における遺伝資源又は遺伝資源に関する伝統的知識の開示に関する規制の導入は、そのような資源を利用して新たな技術的解決策を生み出す傾向に沿ったものである。この規定は、生物多様性に関する法律に定めるものに加え、当該遺伝資源の損失を回避するための措置を追加するものである。

新しい概念ではないが、現行の知的財産法では、特許出願における遺伝資源の開示や伝統的な遺伝資源の知識に関する規定は全く言及されていない。したがって、明細書に開示すべき情報、この理由に基づく特許無効手続における開示情報の評価方法等について、具体的な指針が必要である。

特許出願の審査において要件として言及されているが、開示、特許明細書の補正又は先願主義に関する理由が知的財産法の特許無効理由として認められたことはない。これらの無効理由を改正IP法に盛り込むことは全く合理的である。しかしながら、 「それぞれの技術分野の当業者」 を定義する手続や権限など、いくつかの部分は不明なままである。

 

[3] 結論

我々の意見では、実務家から多くのフィードバックを受けた改正IP法は、ベトナムの知的財産環境に必要かつ合理的な多くの変更を導入した進歩的なものである。しかしながら、これらの新しい特許に関する条項をどのように理解し実施するかについて、より明確にし、専門的な助言を必要とするいくつかの曖昧さがある。

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