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8月 23, 2022

タイにおける補償条項の強制執行

補償条項は、タイを含む多くの法域において一般的な契約条項ですが、タイ法の観点からは、その強制執行は困難な場合があります。

一般的に、「補償する」とは、潜在的なリスクや損失について他方当事者に責任を負わせないようにすることを意味します。一方の当事者(「補償者」)が他方の当事者(「被補償者」)に補償するという場合、補償者は、(契約で合意された範囲内で)被補償者に債務または損害を支払い、補償する義務を負います。このように、補償条項は潜在的なリスクに対する責任を当事者間でシフトするための有用な規定となります。

一部の法域では、「補償」には、被補償者が負担した弁護士費用も含まれると解されています。これには、被補償者に対して提起された請求を防御する義務または防御するための資金提供の義務を伴う場合もあります。そのような法域の場合は、契約書に明確に記載されていなくても、補償者は、弁護士を雇って被補償者のための弁護士費用を支払わなければなりません。

補償条項を含む契約では、補償に上記のような防御義務を含めることが通常です。事例を用いてこの点を説明いたします。例えば、小売業者が、機械の供給者(サプライヤー)から機械を購入する場合、サプライヤーは、その機械に欠陥が生じた場合に小売業者の顧客からのクレームに対して小売業者を補償し、防御することに同意するとします。実際に機械に欠陥が生じた場合には、サプライヤーは、契約法又は過失に基づいて小売業者が被る損害を支払う義務に加え、小売業者の顧客が訴訟を起こした場合、サプライヤーは小売業者を防御するための弁護士費用も支払わなければなりません。

しかしながら、タイでは、この種の補償条項は強制できない可能性があります。多くの法域における契約法とは異なり、タイの契約法には「契約上の補償」について明記されていません。タイでは一般的に、「補償(Indemnity)」とは民商法典第222条に基づく「補償(Compensation)」を意味すると理解されています(最高裁判所判決7943/2542も同旨)。民商法典は、損害賠償請求は契約の不履行に起因して「通常」発生するすべての損害を含むと規定し、さらに「特別な事情により発生した損害で、当事者が当該状況を予見していた又

は当然予見すべきであった場合」にも、請求者は損害賠償を求めることが認められると規定します。

民商法典の222条の「補償」には通常補償と特別(結果的)補償の2種類があります。通常の補償は、合理的に予想される「直接的」損害に対するものです。これには、機会、便益、収入、利益の損失が含まれる場合もあります。例えば、前述のシナリオを使用すると、小売業者は欠陥のある機械を供給したサプライヤーに対して、機械の修理費用や修理の間のリース料を含む直接損害を請求して訴えることができます。

特別補償とは、原告が既に被告に危険性を知らせていたか、契約違反の前に被告が損害を予見すべきであったために、被告が予見可能と考えられる「間接的」損害に対する補償をいいます。同じ事例に戻りますと、もし小売業者が顧客に対し、機械を期限までに引き渡せなかった場合に違約金を支払うことに同意していた場合、その違約金は「間接的」又は「特別」損害とみなされます。サプライヤーは、当該機械の売買が行われた時点で小売業者と顧客間の当該違約金に関する合意を認識していた場合にのみ、これらの間接的損害を補償する責任を負います。

ここで1つ問題になるのは、サプライヤーと小売業者との間の契約に、サプライヤーは顧客のクレームに対して小売業者を補償し、防御することに同意すると書かれている場合、サプライヤーが小売業者を防御するための弁護士を雇用しなかったとき、小売業者は自分が負担した弁護士の費用を請求できるかということです。

タイの法典には契約上の補償に関する記載がないため、指針として関連する最高裁判所の決定を参照する必要があります。1998年の最高裁決定4023/2541において、最高裁は、被告の債務不履行があった場合に、原告が負担した弁護士費用を被告に支払わせる契約条項の有効性を検討しました。最高裁は、この契約条項は、裁判所が敗訴者に対して、弁護士費用の勝訴者への支払いを命じるかについての裁量権を有するとした民事訴訟法に反し、公序良俗に反するとして、無効と判断しました。

しかしながら、逆に、2005年には、最高裁判所は、契約書に明記された弁護士費用は、民商法典の第222条第1段落に基づく通常補償として請求しうる直接損害であると判断しました(決定6288/2548)。

これが新しい指針と思われたところ、さらにその後の2008年の最高裁決定(決定2147/2551)においては、2005年の決定と矛盾するように思える決定が出され、債務不履行当事者の弁護士費用を支払う契約上の義務は、いかなる法律に基づくものでもなく、弁護士費用は民商法典第222条に基づく直接損害でも特別損害でもないと判示されました。

これらのいくつかの異なる最高裁の決定によれば、弁護士費用をカバーする補償義務に関して、タイの裁判所が将来どのような判決を下すかは明らかでありません。したがって、当事者は、かかる契約条項に関して争いが生じた場合、具体的にどのように解決すべきかを決定する必要があります。しかし、今後この問題をめぐってさらなる紛争や事件が起これば、最高裁はこの論点を再検討することになると思われますので、裁判所が、世界中で補償条項の交渉を行うことがいかに一般的か認識することを期待したいと思います。

 

備考:本和文は英文記事を翻訳したものです。原文については、以下のリンクをご参照ください。 Enforcing Indemnification Clauses in Thailand

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